「鼻濁音かどうか」ではない。一番使われるのは「第三のガ」。
合唱人は日本語の発音に関してときに選択を迫られます。
その一つは「ガ」の発音。
楽譜に書いてある「が」を鼻濁音にするのかしないのかという問題です。
今回は、小春ういがこの問題に答えます。
そもそも「ガ」の読み方の選択肢は3つだよ
多くの歌い手は、ガ行の発音についてこのように考えています。
おおよそ、単語の頭は「鼻濁音ではない普通のガ」、語中なら「鼻濁音にしない」。
このように歌い分ける方が多くいらっしゃると思います。
しかし、この歌い分けだとしっくりこない……鼻濁音の「ガ」に違和感を感じるということはありませんか?
例えば、卒業ソングとして人気のあるレミオロメンの『3月9日』の冒頭の歌詞
「流れる季節の真ん中に〜」
この「ながれる」は語中です。なので、単語の頭は「鼻濁音ではない普通のガ」、語中なら「鼻濁音にしない」というルールに則るなら鼻濁音で歌うべきものです。
しかし、それだとレミオロメンがそうは歌っていないからという次元ではなく「なんか変」と思うと思います。
それは、そのはず。
日本語のガ行の発音は2つではなく、3つで語るべきものだからです。
ガ行の発音は2×2の表で考える
ガ行の発音は、先程の表に一段追加して2×2の表で考えるとスムーズです。
ガの③つ目の選択肢が何かを考える前に、①には普通のガ・②には鼻濁音のガが入るとして、「a」「b」「A」「B」にはそれぞれ何が入るかを考えてみましょう。
普通のガと鼻濁音のガの違いって何だっけ
まずは「a」と「b」を考えてみましょう。
つまり、「普通のガ」か「鼻濁音のガ」かを分ける要素は何かということです。
それは、字面からも分かりやすいように、ガの準備のためにせき止められた空気が口から出るか鼻から出るかということです。
これを音声学では、「口音(こうおん)」「鼻音(びおん)」と呼び分けます。
つまり、「a=口音」「b=鼻音」となります。
漢字の通りの分かりやすい名称ですね。
第三のガは私たちが最もよく使う発音
続いて、「A」と「B」を考えてみる前に、「鏡」と言ってみてください。
喋れといわれるとよそ行きの喋り方になってしまう方も多いと思うので、できるだけ早く「鏡」と10回続けて言ってください。
その時の、「鏡」のガは、丁寧に発音した時より短く軽くはありませんか?
①普通のガや②鼻濁音のガでは口の奥あたりで空気がせき止められる感じがすると思いますが、「鏡」のガではその感覚がないと思います。
ガ行は「破裂音(息をいったんせき止めて、その後それが破られる音)」と思う人も多いと思いますが、実は、破裂しないガもあるのです。
しかも、一般に日常生活で一番多く使われるのはこの音です。
①普通のガや②鼻濁音のガが、上顎のあたり(軟口蓋)と舌の根元のあたり(舌根)がくっついて息をせき止めるのに対して、「鏡」のガではくっつきません。ただかなり近づいているためその間を通る摩擦音がします。
ということで、「A=破裂音」「B=摩擦音」となります。
つまり、第三のガは「口音×摩擦」の音なのです。
それぞれの特徴をご紹介
改めてそれぞれ、どんな時に使われるのかとあわせてご紹介します。
①普通のガ:口音×破裂
ガが単語の頭にある場合はどんな曲でもこちらのガ。
②鼻濁音:鼻音×破裂
古風さや正当さを出したい場合、語中のガに使うと効果的。
③「鏡」のガ:口音摩擦
ポップス曲や現代の合唱曲の場合はこちら。スマートな印象に。
第三のガを使いこなして「脱・合唱ダサい」を目指してみてね
いかがでしたか。第三のガを使いこなすと、「ポップスを合唱するのってなんか違う」というダサさから少し離れることができます。
使い始めは音程や発声がふらつくかもしれませんが、何事も鍛錬あってこそです。ぜひチャレンジしてみてください!
〈ライター:小春うい〉
日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。