「宗教曲っぽくない」って時に読んでほしい。ラテン語の発音:「Salve Regina」
合唱祭や合唱コンクールの講評で、ときどきこんな言葉を書かれているのを目にします。
「宗教曲が宗教曲っぽく聞こえない」
世俗曲と比べたときの宗教曲の特徴の一つは「一本ぐっと強固な芯が通っているようなかんじ」といえるでしょう。
それの表現を乱してしまう要因のひとつは発語にあるかもしれません。ということで「ラテン語宗教曲の発音」についてお伝えします。
今回は、「Salve Regina」を取り上げます。
「ve」が開いてぶっきらぼうに聞こえてしまう
たとえば、「Salve Regina」という歌詞を歌うときに「ve」が開きすぎてしまって、ぶっきらぼうに聞こえてしまうことがあります。
歌の練習をするにあたってまず分解して捉えてみることはとても大切です。
「Sa」「l」「ve」「Re」「gi」「na」
ひとつひとつを鳴らすことができるというのは基礎の基礎です。
しかし、一つ一つ取り分けて発音した発語と、単語として発音されたときの発語は微妙に違います。
たとえば、「あ」「ん」「しょ」「う」と発音したときの「ん」と、「暗唱」と発音したときの「ん」はかなり違うということが実感できるのではないでしょうか。
これと同じことがラテン語でも起こっているのです。
ですので、歌詞の中で発音されたときにどんな発音になるかを意識することが大切です。
すべての単語についてそれを確認することは難しいかもしれませんが、決め台詞となる重要な単語だけでも確認してみると大分雰囲気が変わります。
「Salve Regina」は凄まじい想いが込められた言葉
「Salve Regina」は曲のタイトルになったり、歌詞の一番最初に置かれたりと重要度の高い単語です。
その意味は直訳では「めでたし元后よ」「あわれみ深き母」などと訳されますが、なんだか素っ気ないのでもっと身近になるように具体的に考えてみましょう。
人が言葉を発するのには理由があります。ここでのその理由はこんなかんじでしょう。
クリスチャンではない私には想像し難いほどの想いが「Salve Regina」には込められているのだと思います。
それはたとえば、とびきり偉い人を前にしたときの恐れ多さと、大好きな芸能人を前にしたときに溢れ出るエネルギーが同時に身の内に広がるほどのものかもしれません。
とにかく「凄まじい言葉である」ということを心に止めてください。
「ve」のビリビリをゆるく長く
その上で、「Salve Regina」をそれほどまでのニュアンスで歌うためには、「ve」が開きすぎてしまってぶっきらぼうになるようでは叶いません。
ではどのくらいの発語が適切なのかを考えてみましょう。
「Salve Regina」において「ve」は「l」と「Re」の間に位置しています。
それは「閉じた音」になりやすい位置です。
「l」は舌がぐっと持ち上がって息が出る通路を塞ぐ、緊張度の高い音。
「Re」も舌先で上の歯茎の裏を軽く叩くために、顎があまりあかない音。
この前後の発音の影響と、「聖母マリアに呼びかける」というニュアンスから、「ve」は勢い良く開くというよりも、擦る動きに近い発語になります。
「v」は上の歯と下唇によって発生するビリビリが特徴的な発音ですが、このビリビリをいつもよりゆるく、しかし長く保ちましょう。そして、「e」の母音に移ってもそのビリビリの雰囲気が残っているくらいが理想的です。つまり、ビリビリを作っているときと同じくらいの顎の開きで「e」を発音します。
このくらい発語に対して注意深くなると、1本芯が通った感じがでてきます。
そうすると、ぐっと宗教曲っぽい発音に寄ってくるのです。
〈ライター:小春うい〉
日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。