脱「カタコトの歌」。歌詞の意味を深める前に、歌詞の発語を分析しよう
「歌詞はよく聞こえるけど、気持ちがこもってない」
「素直に歌うことはできるけど、色気が無い」
こう言われたら何をしますか?
作詞家の経歴を調べる?
歌詞の意味を深める?
歌詞の情景を絵に書く?
その前に、自分の歌に関する技術を見直してみましょう。
多くの場合足りてないのは、想像力よりも、イメージを歌に反映する「技術」なのです。
日本語の母音は5つ……?
「日本語に母音は5つ」こう思って歌ってはいませんか?
それは正解ではあるのですが、こう思う人の歌はおそらく「カタコト」です。
「青」という括りの中には「藍色」「群青色」「水色」とさまざまな色があります。(参考:青系の色一覧:日本の色・和色)
同じように、「あ」の中にも、ひどく暗い「あ」・暗めの「あ」・明るめの「あ」・ひどく明るい「あ」・だんだん開いていく「あ」・スパッと開く「あ」・なかなか開ききらない「あ」など、たくさんの「あ」があります。
広く括るか、細かく分けるか。その視点の置き方が、「カタコトの歌」になるか「語感のある歌」になるかの分かれ道です。ニュアンスを伝えるためには母音は5つでは足りません。
「日本語の母音は無数にある」と、どこまでも細かく分類する心構えで歌詞を研究しましょう。
「ビン」と「旅」。「び」は全然違う!
母音も子音も、喋っているときにはさまざまな音色を使っています。
今回は、「び」の発音を考えてみましょう。
「ビン」と「旅」。
この2つの単語の「び」を比べて、その違いを見つけてください。
唇の力み具合・唇の上下が当たる位置・息の溜まる量・響きのかたさ具合……。全然違うことが分かりますか。
「ビン」の「び」は、硬くてハッキリとした音が鳴ります。
唇を巻き込むような力が入り、しっかり息を溜めて発音されます。
一方、「旅」の「び」は、ゆるくてあいまいな音が鳴ります。
唇はあまり力が入りません。唇の上下が触れる位置は「ビン」のときより少し後ろ。そして、くっつくかくっつかないかくらいの軽さです。
※IPA(国際音声記号)では、前者を「b」後者を「β」と書きます。違う記号が必要とされるほどに違う発音なのです
細かい違いの積み重ねによって「カタコト」が「語感」に
このように細かい違いを歌に反映すると、「カタコト」の歌が「語感」のある歌に近づきます。
フレーズの始めやフレーズの終わりなど、重要なところから単語を細かく見ることを試してください。そうすれば、曲の雰囲気はガラッと変化します。
次回は、『椰子の実』を題材に発語について深めます。お楽しみに!
〈ライター:小春うい〉
日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。