合唱手帳

20・30代の合唱愛溢れるメンバーが「歌う楽しさ」を伝えるために立ち上げた合唱サイト。

初出場全国3位は「どこを改善したらもっと良くなるだろう?」の文化があったから

こんにちは、小春ういです。

 

今回は、高校2年生の時、初出場で朝日コンクール全国大会特別賞入賞を果たしたときのお話をしたいと思います。

 

正式に部活になってわずか3年目

私の通った高校には合唱部はありましたが、同窓会から部活になりたてでコンクール出場経験はありませんでした。

そんな中、私が高校2年生の時に、全国大会を目指して「全国合唱コンクール(通称:朝日)」と「NHK全国音楽コンクール(通称:Nコン)」に初出場。

 

しかし、顧問の先生は合唱初心者、部員は高校1年と2年のみ。練習時間もたっぷりとあったわけではありません。その後メンバーは増えましたが、県大会は9人での出場でした。その他の点で恵まれていた点はありましたが、全国常連校に比べれば不利な状況です。

 

そんな中、私たちは初出場で全国大会に出場、しかも部門3位に相当する特別賞までいただきました。

 

その勝因を今振り返るなら、それは並々ならぬ「自主性」だったと思います。

 

私たちは歌わされているんじゃなくて、自分たちで歌っているんだ! そしてこの点で私たち以上に勝っている学校なんてない!

 

と、自分たちの置かれた「頼れるプロが身近にいない」ということを強みとして原動力に変えられたとと。これが私たちの勝因です。

 

自分たちの課題が分からなかった

繰り返しになりますが、私たちの身近には、目指すべき音楽や精進の方法を示してくれるプロがいませんでした。

 

それでも上を目指すには、自分で自分の課題に気付くしかありません。

 

しかし、当時の私たちは「上手い合唱ってどんなものか」すらあやふやで、自分たちに足りないものが何かさえ分かっていませんでした。

 

そのために、最初の頃はもっぱら課題の探し方に時間を費やしました。

 

・順番に前に立って改善点と思しきものを述べる

・各パート1人で歌ってみて、聞き手が感想を述べる

・録音して、みんなで聞いて、改善点と思しきものを発表する

・ビデオカメラで録音して、見栄えまでチェックする

・過去の『ハーモニー』*の全国大会の講評を読み込んで審査員の目線を洗い出してみる

*ハーモニー:全日本合唱連盟の会報。毎年、全国大会を審査した審査員による座談会が掲載される

・常連校の自由曲と同じ曲に取り組み、その常連校の強さを分析する

 

など……とにかく思いつくことを片っ端から試しました。

 

すぐに効果が感じられたものもあれば、労力に見合うだけ血肉が付いたか不安なものもあります。ただ、この期間に私たちの「聴く力」が成長し、また「練習の型」が生まれたのは確実です。

 

誰もが改善点を探した

練習の型が決まったのは県大会2週間前頃でした。

 

練習時は、誰か一人が前に出て「こうした方がいいんじゃない?」という指摘をする形で行うことが基本になりました。前に出た人が気付けることを言い尽くしたら、次の人に交代。その役は学年に関係なく回ってきます。

加えて、個人練習の時間が比較的多かったことと、毎回録音していたことが特徴でした。

 

そのような練習スタイルは、誰もが「自分はどこを改善したらもっと良くなるだろう?」「自分が何を発言したら全体がもっと良くなるだろう?」と考える土壌となりました。言われたことをこなすのではなく、自分で改善点を探す。誰も何も言ってくれない環境にあって上を目指すには、これしか手段がなかったのです。

 

課題の発見した1時間後には、みんながエキスパートに

また、ひとつひとつの課題を、誰もが確実にできるようになるまで時間を掛けました。全員が理解し・納得し・実行できるようになるまでどれだけでも時間を掛けました。

 

「Kyrie」の「き」の発音をどうすべきかを1時間突き詰めたこともありました。

 

誰かが、「揃ってないよね」と言えば、私たちが歌う「き」をどのようなものにするのかを決める話し合いのスタートです。

 

一人ひとり歌ってみて、「私はAさんの発音がいいと思う」「いや、Bさんの方がこのシーンにはあってると思う」とそれぞれが思うベストを言い合います。そこで「良さそう」という意見が出た全ての案をみんなで歌って試してみて、音楽にハマりがいい発音を決めます。

だいたい「AさんとBさんの間くらいがいいね」という風に複数の案からいいとこ取りをしたものに落ちついて、発音が決まり。

 

次は、全員が同じ発音ができるようになるまで練習します。一人づつ歌ったりパートごとに歌ったりするのを、「なんかまだ発音がバラバラに聞こえるね。Yさんちょっと強すぎない?」などとみんなでチェックして磨きを掛けます。

 

そうしているうちにあっという間に60分。一瞬の発音ためにこれだけの時間を掛けることがしばしばでした。

しかし、これだけやれば、誰もがそのエキスパートになれました。

 

ここまでたっぷり時間を掛けられたのは紛れもなく、私たちが気づけた「課題」が少なかったことの裏返しです。

「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ! やりたいことが多くて時間が足りない!」と時間配分を焦るほど多くの課題には気付けなかったのです。

 

愚直さだけが取り柄だった私たち

実は、私たちがコンクールで歌った自由曲はとても簡単な曲でした。女声3声でディビジョンも無し。人数の少ない中学校が自由曲に選ぶような曲です。中学校の県大会ではよく見かけるけど、全国ではあまり見かけないような取り組みやすい曲でした。

 

それを私たちは高校生で取り組んで、全国3位を取りました。

人数が少なくても、全国大会という場に不釣合いなほど簡単な曲でも、プロが身近にいなくても、私たちはコンクールで十分に戦うことができました。

 

それは、自分たちで見つけた道を愚直に突き進んだからだと思います。

 

自分たちの道を見つけてください

今、中学校や高校の合唱部にお邪魔すると、こう言われることがあります。

 

「人数が少ないから、コンクールでいい成績が取れません」

 ーー 大丈夫です、人数が少なくてもいい演奏ができます。 

 

「難しい曲ができなくて、コンクールでいい成績が取れません」

 ーー 大丈夫です、私が高校生の時に歌った自由曲より難しいです。 

 

先生が「私の技術が足りないから、コンクールでいい成績が取れません」

 ーー 大丈夫です、少なくとも高校生の頃の私より技術があります。

 

 

たしかに、「人が多いこと」や「難曲に取り組むこと」「強い先生がいること」は、コンクールで結果を残す部活の傾向です。しかし、それが全てではありません。

 

ただ、強豪校と同じような王道を進んでも勝てはしないということは確実です。彼らの練習の真似をして彼らを越すことはできません。

 

自分たちの道を見つけてください。

 

 

私たちの経験が、その参考になれば幸いです。

 

 

〈ライター:小春うい〉

日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生の時、NHK音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。