服の色を合わせるように、発語のトーンをあわせよう。「黄色とピンクの話」
「本当にそう思って歌ってる?」と言われ悔しい思いをしたことはありませんか?
私は学生の頃、先生にこう言われ、心がないのかな? 鈍感なのかな? と思い悩んだ頃がありました。
しかし、今は足りなかったのは心ではないと断言できます。
足りなかったのは、技術です。
もちろん、気持ちがあることも大切ですが、同時に技術へのアプローチをしなければならなかったのです。
気持ちと技術は足し算の関係ではなく、掛け算の関係です。
「気持ち×技術=心がこもっているように聞こえる度合い」
そして多分、あの日の私は、「7(気持ち)×1(技術)=7(心のこもり具合)」。
心のこもり具合を高めたければ、気持ちを1伸ばすよりも、技術を1伸ばす方がスマートなやり方です。気持ちがあるけど改善しないように感じるなら、心機一転、技術に目を向けてみましょう。
今回は、そんな技術の1つにあたる「語感」についてお伝えします。
「Maria」に心がこもりにくい理由
ラテン語の「Maria」という単語を例に採りましょう。
ラテン語の単語の中でも身近に感じやすい単語ですが、ぶっきらぼうに聞こえやすい単語です。
たいてい「ri」と「a」の間で音色がガラッと変わってしまうことが「ぶっきらぼう」の要因の1つですが、そのぶっきらぼうさは「聖母マリアに呼び掛ける」感じには似合いません。
ただ多くの場合、歌い手に「Maria」を大切にしていない自覚はありません。気持ちはあるけれど「言葉を大切にすること=ひとつ一つの単語をハッキリ届けること」という方程式が間違っているためにぶっきらぼうに聞こえるのです。
言葉を大切にしているよう聞き手に聞かせるためには、「語感を体現すること」が必要です。
その初歩をお伝えするときのお話があるので、ご紹介します。
「黄色とピンクのお話」
服でも、ブログやSNSの配色でも、絵を描く時でもなんでもいいけど、色をあわせるときってどうする?
たとえば黄色とピンクを合わせるとしよう。
「黄色」っていっても
・レモンのような黄色
・パステルカラーの黄色
・蛍光色の黄色
といろいろあるし、
「ピンク」といっても
・桜の花びらのようなピンク
・パステルカラーのピンク
・ショッキングピンク
といろいろあるよね。
ここからいい感じに2色を組み合わせようとしたら、トーンを気にしない?
「蛍光色の黄色」なら「ショッキングピンク」、「パステルカラーの黄色」なら「パステルカラーのピンク」が無難だなって、なんとなくこれが合いそうだなって組み合わせがあると思う。
歌詞の扱い方もこれと一緒。
単語ごとにトーンを揃えると収まり良く聞こえるの。
今みんなの「Maria」はね、「ri」を「蛍光色の黄色」で、「a」を「パステルカラーのピンク」で歌っているような感じでトーンがバラバラに聞こえるんだ。
それじゃ「Maria」全体で何を表したいかは伝わらない。とてもぶっきらぼうにきこえてしまう。でも「Maria」って、聖母マリアへ呼び掛けてるんだよ。言葉で言い表せないくらい大切な人に呼び掛けるのにそんなにぶっきらぼうじゃ、そりゃあ「本当にそう思って歌ってる?」って言われちゃうよ。
まず、3つの音のトーンを揃えてみよう。それができることが「語感」を自在に操るようになるスタートだよ。
※「ri」が「蛍光色の黄色」、「a」が「パステルカラーのピンク」のワケ
「ri」は横に引っ張る動きもあり緊張感のある音色で歌われることの多い発語です。一方「a」は口をよく開けるため「ri」に比べると響きが散りやすい発語です。そのことから「ri」を「蛍光色の黄色」に、「a」を「パステルカラーのピンク」に例えてみました
前後のつながりから納まりの良い音色を選んでみよう
この「色と同じように発語にもトーンがある」という意識を持って歌詞に接し歌ってみることが「語感」にアプローチするための最初の一歩です。
「Maria」の例では、
・「ri」は口を横に引く力を少し緩めて丸い響きを取り入れる
・「a」は顎をあける力を緩めて少し狭めだけどあたたかい響きに寄せる
こうして、1つの単語内のトーンをあわせること、ぜひ行ってみてください。
〈ライター:小春うい〉
日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生の時、NHK音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。